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最高裁判所大法廷 昭和31年(あ)634号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人森安敏暢の上告趣意について。

所論は違憲をいうが、その実質は事実誤認の主張に帰し、適法な上告の理由とならない。

弁護人青柳盛雄、同竹沢哲夫、同高島謙一の上告趣意第一点について。

被告人らは島根食糧事務所邑智支所の職員として、国家公務員法に規定する一般職に属する公務員であったことは、原判示によってあきらかである。およそ、公務員はすべて全体の奉仕者であって、一部の奉仕者でないことは、憲法一五条の規定するところであり、また行政の運営は政治にかかわりなく、法規の下において民主的且つ能率的に行わるべきものであるところ、国家公務員法の適用を受ける一般職に属する公務員は、国の行政の運営を担任することを職務とする公務員であるからその職務の遂行にあたっては厳に政治的に中正の立場を堅持し、いやしくも一部の階級若しくは一派の政党又は政治団体に偏することを許されないものであって、かくしてはじめて、一般職に属する公務員が憲法一五条にいう全体の奉仕者である所以も全うせられ、また政治にかかわりなく法規の下において民主的且つ能率的に運営せらるべき行政の継続性と安定性も確保されうるものといわなければならない。これが即ち、国家公務員法一〇二条が一般職に属する公務員について、とくに一党一派に偏するおそれのある政治活動を制限することとした理由であって、この点において、一般国民と差別して処遇されるからといって、もとより合理的根拠にもとづくものであり、公共の福祉の要請に適合するものであって、これをもって所論のように憲法一四条に違反するとすべきではないのである。また、憲法二八条違反でないことについては、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)六八五号、同二八年四月八日大法廷判決、集七巻四号七七五頁以下参照)。

なお論旨は、特別職に属する公務員のうちに、政治的行為の制限を受けていない者(例えば内閣総理大臣、国務大臣)等のあることを挙げ、一般職公務員との間に差別あることを云為するが、これら特別職に属する公務員は、その担任する職務の性質上、その政治活動がその職務となんら矛盾するものでないばかりでなく、かえって政治的に活動することによって公共の利益を実現することをも、その職分とする公務員であって、前示のごとく、政治と明確に区別された行政の運営を担当し、この故につよくその政治的中立性を要求される一般職に属する公務員とは著しくその性質を異にするものであるから、右のごとき差別は、また、合理的根拠にもとづくものであり、公共の福祉の要請に適合するものであって、所論憲法一四条違反の主張は採用することはできない。

同第二点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、適法な上告の理由とならない。

同第三点の一、二について。

所論は原審において主張、判断を経ていないから適法な上告の理由とならないのみならず、所論自白が強制、脅迫、誘導等に基づくものであることを疑わしめる何らの証跡も記録上認められず、違憲、違法の主張は、その前提を欠くものであって採るを得ない。

同第四点について。

所論は原審において主張、判断を経ていないから適法な上告の理由とならないのみならず、憲法三七条一項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、構成その他において偏頗のおそれなき裁判所の裁判をいうものであり、また同条二項は、裁判所が必要と認めない者まで証人として職権で喚問し、被告人に直接審問の機会を与えなければならないという意味のものでないことは、当裁判所の判例とするところであって(昭和二二年(れ)一七一号、同二三年五月五日大法廷判決、集二巻五号四四七頁以下、昭和二二年(れ)二五三号、同二三年七月一四日大法廷判決、集二巻八号八五六頁以下参照)、所論は採るを得ない。

同第五点ないし第七点について。

所論は違憲をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張に帰し、適法な上告の理由とならない。

よって刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

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